研究概要 |
これまでの研究から、一過性脳虚血ストレス負荷による虚血側における梗塞巣の形成、行動障害、記憶学習能力の低下に先行して、全身性にインスリン抵抗性が生じ、血糖値が上昇することを明らかとした(Harada et al., 2009)。興味深いことに、この虚血後高血糖を抑制することにより、神経障害の発現が抑制されることが明らかとなり、また、末梢臓器を標的とした糖代謝改善薬によって虚血後高血糖の改善と、神経障害発現の抑制が可能であることを示す知見を得た。本研究は、こうした上位中枢における神経障害が末梢臓器における機能低下を誘発すること、さらには、それが神経障害の発現を促進させる可能性を示唆している。現在、脳卒中治療戦略は脳を標的としたものが中心であるが、全身性の糖代謝調節を標的とした抗糖尿病薬などの、脳卒中治療における新たな有効性についても示唆される(投稿中)。 さらに、脳卒中後疼痛発現について観察した。左側中大脳動脈閉塞による虚血ストレス負荷後において、左右後肢の一次知覚神経終末に対する電気刺激を行ったところ、有髄A線維の知覚応答に対する感受性の増大が観察された。さらに、右後肢においては部分的に、また、左後肢においては、有意な痛覚閾値の低下(痛覚過敏)が生じることを明らかにした。さらに、これらの痛覚過敏は麻薬性鎮痛薬により抑制されることも明らかとしている。本研究において、虚血ストレス負荷により誘発される脳(上位中枢)における神経障害にっいては明らかにされたが、知覚情報伝達に重要な役割を担う脊髄レベル(下位中枢)での神経障害についての知見は得られていない。知覚過敏、痛覚過敏の発症機序としては、上位中枢あるいは下位中枢における興奮性神経伝達の亢進や、抑制性神経入力の抑制が示唆されるため、今後は虚血ストレス負荷による、これらの詳細な分子機序を解明する必要性が残されている。
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