研究概要 |
心臓は圧負荷刺激により、初期には心筋細胞が肥大して心機能を維持しようとするが、負荷が過剰になるとこの代償機能は破綻し、心肥大から心拡大・心不全へと移行する。したがって、心肥大の形成機序の解明は、心不全の予防・治療法の開発に繋がる重要な課題である。これまでに、運動による生理的心肥大に脂質リン酸化酵素PI3K-Akt経路が重要であることが分かっている。最近申請者は、この経路の上流に位置するPIP5Kαの野生型ならびに活性欠失型変異体を心筋特異的に高発現させたトランスジェニックマウス(PIP5Kα-Tg, PLP5KαDN-Tg)を作製し、両マウスに大動脈狭窄術を施して圧負荷を加えるとPIP5Kα-Tgでは心肥大が悪化し、PIP5Kα-DN-Tgでは逆に心肥大が抑制されることを見いだした。これは病的心肥大の形成においてもイノシトールリン脂質代謝が重要な役割を果たすことを示唆している。本研究では、これらPIP5Kα遺伝子改変マウスを用い、生理的および病的心肥大形成におけるPIP5Kαならびに各種ホスホイノシチドの役割を解明し、新たな心不全の予防・治療法の開発を目指す。大動脈狭窄術を施したWT、PIP5Kα-Tgの心臓においてNFAT活性、心肥大および繊維化マーカー(ANP、BNP、MMP2など)の遺伝子発現量が増加していた。一方、PIP5Kα-DN-Tgではこれらマーカーの増加が有意に抑制されていた。現在、他のシグナル因子についてもウェスタンブロット法により解析中である。さらに、PI(4, 5)P2およびPI(3, 4, 5)P_3を細胞・臓器レベルで可視化する目的で、PLCδ1PH-GFPおよびBtkPH-GFPの発現ベクターを作成した。今後、これらツールを用いることにより、生理的および病的心肥大形成におけるPLP5Kα活性および各種ホスホイノシチドの量比・局在の生理的意義を解明する。
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