小胞体ストレス及びunfolded protein response(UPR)は、多くの疾患との関連が指摘されている。固形がんにおいては、腫瘍の内部の微小環境ストレスによるUPRの活性化が、抗がん剤耐性やがんの悪性化の一因となると考えられており、UPRの分子機構の解明は、薬剤耐性を標的とした新たな抗がん剤や治療法の開発につながるものと期待される。 本研究では、我々がこれまでに同定したUPR阻害剤であるversipelostatin(VST)及びビグアナイド化合物(metformin、buformin 、phenformin )を用い、5 種類のヒトがん細胞株でマイクロアレイ及びreal -time PCR による遺伝子発現解析を実施した。種々の小胞体ストレス下の細胞で解析を行った結果、VST及びビグアナイド化合物は、グルコース飢餓ストレスにより誘導されるUPR 関連遺伝子を含む178 個の遺伝子の発現変化を広く阻害することが明らかになった。さらに、これらの遺伝子発現プロファイルを基に、VST及びビグアナイド化合物に類似した作用をもつ化合物をConnectivity MaP データベースより検索した。これまでに13 種類の候補化合物について調べた結果、グルコース飢餓ストレス下でUPR マーカー分子GRP78 の誘導を抑制する作用をもつ6 種類の化合物が新たに同定された。そのうちのひとつであるパモ酸ピルビニウムは、グルコース飢餓ストレス下で特異的にUPR経路の活性化を阻害し、選択的な細胞毒性を示すことが明らかになった。 これらのUPR 制御化合物には、すでに抗腫瘍効果が報告されているものも含まれており、がんの新たな治療薬となる可能性がある。今後、種々 のUPR 制御化合物についての標的分子及び作用機序の分子生物学的解析を行うことで、UPR の分子機構が明らかになるものと期待される。
|