研究課題
ES細胞は、胚盤胞の内部細胞塊より樹立された全能性を有する細胞であり、高い自己複製能と増殖能を持つ。我々はTGF-βシグナル標的遺伝子のES細胞増殖への関与を解析する過程で、Tsc-22に着目した。まずマウスES細胞へTsc-22遺伝子を導入して、ES細胞の増殖、全能性の維持におけるTsc-22の役割を検討したところ、Tsc-22を発現させたES細胞では増殖抑制が認められた。しかしながら未分化マーカーの発現は認められ、全能性は維持されていると考えられた。マウスES細胞の増殖には、Rasファミリーの1種である日ERasが重要である。ERasは全能性の維持には必須ではないが、ES細胞の増殖、腫瘍形成に重要であることが知られている。そこでTsc-22とERasの結合について検討したところ、Tsc-22とERasの結合が認められた。ERasは、主にGTP結合型(活性化型)として存在し、主にPI3 kinase経路を活性化する。そこでTsc-22とPI3 kinase触媒サブユニットであるp110δとの結合について検討したところ、Tsc-22はp110δとも結合し、Tsc-22、ERas、p110δは3者複合体を形成することが明らかになった。次にTsc-22を発現させたときのES細胞の増殖シグナル伝達系への影響について検討したところ、Aktのリン酸化が抑制されることが明らかになった。さらにERasによって制御される下流シグナルについて検討するために、ERasを発現する培養細胞株を樹立した。ERasを発現する細胞株では、低血清状態でのリン酸化Aktの低下が起こらず、さらにはがん遺伝子c-Mycの減少も起こらないことが明らかになった。このことからERasからのシグナルはc-Mycの安定性にも影響を与えていることが示唆された。現在このERas発現細胞株にさらにTsc-22を発現させたときのシグナル伝達、足場依存的な増殖、ヌードマウスでの造腫瘍性を検討している。
すべて 2008 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
Biochem Biophys Res Commun 376
ページ: 288-292
Mod Rheumatol 18
ページ: 472-479
がんの分子標的治療(南山堂)
ページ: 132-139
http://www.md.tsukuba.ac.jp/epatho/