研究概要 |
本年度は、Tsc-22のES細胞の増殖抑制作用について解析を行った。まずES細胞に胚様体を作成させ、分化過程におけるTsc-22の発現について解析した。するとTsc-22は未分化なES細胞、及び分化したES細胞で発現していることが明らかになった。山中らはES細胞の初期化を誘導する転写因子として、Oct4,Sox2,Klf4,c-Mycの4つの転写因子を同定した。Tsc-22はc-Mycと結合することから、その他3つの因子との相互作用についても検討した。するとTsc-22はc-Mycのみならず、Oct4にも結合することが明らかになった。一方、Sox2,Klf4には結合しなかった。Cdkインヒビターp21は山中因子による初期化を抑制することが報告されている。そこでp21レポーターに対するc-Myc,Oct4の作用について検討したところ、c-MycだけでなくOct4もp21レポーターを抑制する活性をもつことが明らかになった。さらにこれらの作用はTsc-22によって解除された。さらに我々はc-MycとOct4が結合し、Oct4による転写活性化をc-Mycが抑制することを見出した。さらにこの系にTsc-22を加えると、c-Mycによる抑制が解除された。以上のことからES細胞におけるTsc-22の増殖抑制作用にはc-Myc,Oct4によるp21プロモーターの抑制作用の解除が重要であると考えられた。またTsc-22はc-MycによるOct4の抑制を阻害し、Oct4による未分化性の維持作用に関与していると考えられた。現在Tsc-22をES細胞でノックダウンする実験系を確立し、Tsc-22をノックダウンした際に細胞増殖や分化にどのような影響がもたらされるか検討中である。
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