遊走する細胞はその方向に沿った前後軸を形成する。遊走細胞前方で微小管が捕捉されることが、前後軸の形成・維持に寄与すると考えられている。我々はRac・Cdc42標的蛋白質であるIQGAP1の新規結合蛋白質として新たに+TIPsの一つCLASP2を同定し、その結合が遊走細胞前方における微小管の捕捉を担うことを明らかにした(渡辺ら、JCS 2009)。その分子機構の全貌を解明する目的で、in vitroで微小管の捕捉を再構築することを試みた。蛍光蛋白質と融合した+TIPsを精製し、その挙動をin vitroで再構成することに成功した。また、微小チャンバーを作製し、精製したIQGAP1を側壁に固相化した。チャンバー内で+TIPsを含んだ状態で微小管を重合させ、微小管がチャンバー側壁(IQGAP1)に衝突した際の微小管の挙動を解析したところ、IQGAP1を塗布した側壁に沿って微小管が伸長した。このことは、IQGAP1が微小管をガイドすることを示唆している。この成果の一部は、国際学会で発表した。 一方、遊走細胞前方ではRacの活性が高く、前方への進展は基質との接着により安定化される。細胞基質間接着がRacを活性化すると考えられているものの、その分子機構は判然としない。我々はRac活性化因子Tiam1の新規結合分子としてtalinを同定した。Talinは細胞基質間接着部位に濃縮し、そこでのシグナル伝達に重要な役割を果たしている。我々は、Tiam1が遊走細胞前方の接着部位にtalin依存的に濃縮すること、接着依存的なRacの活性化にTiam1やtalinのみならずTiam1とtalinの相互作用が必要であることを見出した。これらのことから、Tiam1はtalinと協調して細胞基質間接着によるRacの活性化を担うことで、遊走細胞の前後軸形成(極性形成)に寄与すると考えられる。
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