最近、我々は、癌抑制遺伝子として単離されたH-rev107が、リン脂質から脂肪酸を遊離させるホスホリパーゼ(PL)A_1およびA_2活性を示すことを明らかにした。その過程で、H-rev107に相同性を示す2種のヒト分子(HRASLS2とTIG3)を見出した。HRASLS2とTIG3もH-rev107と同様に癌抑制遺伝子として分類されていたが、酵素機能は不明であった。しかしながら、H-rev107の酵素活性に必要とされる複数のアミノ酸残基が両分子においても保存されていることから、これらは脂質代謝酵素であることが予想された。そこで、ヒトのHRASLS2とTIG3のcDNAをクローニングし、FLAGタグを付加した組換えタンパク質としてCOS-7細胞で発現させ、酵素活性を測定したところ、H-rev107と同様にPLA_1/A_2活性が検出された。次に、両分子を抗FLAG抗体をリガンドとするアフィニティークロマトグラフィーによってほぼ均一にまで精製し、これらを用いて酵素学的性質を解析した。その結果、還元剤であるDTTにより活性化され、SHプロッカーであるヨード酢酸で阻害されることが明らかになった。いくつかの既知のPLA_2で見られるCa_<2+>依存性は認められなかった。また、放射標識した種々のグリセロリン脂質を基質とし、PLA_1活性の方がPLA_2活性よりも優位であることが明らかになった。ヒト組織における発現分布をPCRで解析した結果、H-rev107とTIG3は調べた組織すべてにおいて発現しており、特にHTev107は脂肪組織において高発現していた。一方、HRASLS2は組織特異的な発現パターンを示し、腎臓や肝臓などで強く発現していた。以上の結果から、癌抑制遺伝子として単離されたHRASLS2とTIG3が、グリセロリン脂質を基質とするPLA_1/A_2型加水分解酵素であることが明らかになった。
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