研究課題
赤血球は細胞外のアデノシンを取り込んでATPを産生する代謝経路を持ち、一方で、低酸素組織において血管拡張物質としての機能を持つアデノシンが高濃度となることが知られている。大規模なヒト赤血球代謝シミュレーションモデルを用いて生理的条件下でのアデノシンに対する赤血球代謝応答の再現を行ったところ、1分子のアデノシンをATPに代謝する際に2分子のATPを消費する事から、アデノシンを大量に取り込むことで総ATP量、エネルギーチャージが低下し、ここで消費されるATPは、解糖系によって産生されるATPの約1/3を占めると予測された。また、このATP量の減少は、ヘモグロビンのT-state遷移に応答したBand3からの酵素の乖離による解糖系活性化が補償的に働くことで、低酸素時には抑えられる事が予測された。CE-MSによるメタボローム解析を行ったところ、実際に通常酸素でのアデノシン添加により細胞内のATP量、エネルギーチャージが低下し、低酸素で抑えられる事を確認した。更に、赤血球代謝シミュレーションモデルの応用として、日本において広く用いられているMAP血液保存液による低温保存赤血球の代謝動態を再現した。経時的劣化の指標となるATP、2,3-ビスボスホグリセリン酸の低温保存中の濃度データを基にモデルを最適化させた結果、得られたパラメータセットでのシミュレーションは、CE-TOFMSによるメタボローム測定で得られた解糖系中間代謝物質の長期保存による代謝変動を定量的に再現しており、「MAP長期保存赤血球代謝のシミュレーションによる予測」を可能にした。更にモデルの感受性解析の結果から、低温保存赤血球の代謝を長期的に安定に保つ条件を予測した。
すべて 2010 2009
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件)
J Clin Biochem Nutr. 46(2)
ページ: 126-134
Adv Exp Med Biol. 66
ページ: 109-114
J Biotechnol 114(3)
ページ: 212-223