研究概要 |
ヒトES細胞からの赤血球前駆細胞株樹立に関して、まず新たに使用が認められたヒトES細胞株(H1, H9)を用い血液分化誘導を行った。これまでに使用した株(KhES-1, 2, 3)と同様に赤血球を含む血液細胞を誘導することができた。この分化誘導過程において、ヒトES細胞のクローニングに有効であるROCK阻害剤を加えて培養を行ったところ、血液前駆細胞の分化誘導効率が良くなることが判明した。さらに、ROCK阻害剤はヒトのみならず、マウス、カニクイザルES細胞においても有効であり、ES細胞から血液細胞誘導する場合には動物種を問わず普遍的に効果があることが明らかとなった。しかし、赤血球を特異的に誘導する効果やマウス骨髄再構築能への効果は見られなかった。また、ROCK阻害剤を用いて長期培養を行ったが、現在使用可能なヒトES, ips細胞から赤血球前駆細胞株を樹立するまでには至らなかった。一方、マウス赤血球前駆細胞株(MEDEP)を用いた脱核赤血球大量産生の確立に関しては、1)培地中血清濃度を30%に上げる、2)MEDEPを分化させる前にサイトカイン無添加で1日培養する、など、培養条件の工夫により脱核赤血球の産生を30%前後まで上げることが可能となった。さらに赤血球の分化過程において発現が上昇する遺伝子、WAVE2を過剰発現させることによりさらに効率を上げることができた。これに対し、WAVE2と複合体を形成することが知られるIRSp53, Abilなどの発現を抑制することにより脱核赤血球の産生が抑制されることが示唆された。また、WAVE2ノックアウトES細胞を用いて血液分化誘導を行ったところ脱核赤血球の産生が正常ES細胞に比べ極端に減ることが判明した。これらのことからWAVE2を中心とした分子群が脱核を制御している可能性が示唆された。
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