サルコペニアの原因は解明されていないが、申請者はこれまでの研究によって、骨格筋特異的な組織幹細胞である筋衛星細胞数が老化筋組織で顕著に減少していることを見出した。筋衛星細胞数の減少は、筋再生能力を低下させ、さらには筋量の減少をもたらすことが予想される。申請者は、これらの知見を基盤として「加齢に伴う筋衛星細胞維持機構の破綻が、サルコペニア発症の誘因となる」という仮説を想定するに至った。しかし、筋衛星細胞の維持機構には不明な点が多く、この仮説を検証し、筋衛星細胞の維持促進によるサルコペニアの予防法を開発するためには、その分子機序を解明する必要がある。Pax7遺伝子を欠損したマウス(Pax7 KOマウス)では、1)筋衛星細胞が維持されず、生後3週間で筋衛星細胞が枯渇してしまうこと、2)筋衛星細胞の枯渇が原因となって、筋量の減少や脊椎の湾曲などの老化個体に似た表現型を示すことが、知られている。そこで、本研究ではまず、Pax7 KOマウスを用いて、筋衛星細胞の維持に関わる分子機序を明らかにする。さらに、その成果を基盤として、加齢に伴う筋衛星細胞維持機構破綻の原因を明らかにし、サルコペニアに対する新しい予防法の開発を目指す。本年度においては、Pax7ゲノムにLacZ遺伝子が組み込まれたPax7-LacZノックインマウスを用いて、横断筋切片のLacZ染色から筋衛星細胞の存在率を経時的に調べることにより、筋衛星細胞の単離時期や条件の特定を行い、Pax7 KOマウスから筋衛星細胞の単離を試みた。さらに、申請者のこれまでの研究で明らかとなった、老化マウス由来筋衛星細胞で発現が変動し、筋衛星細胞の維持に関わると予想される遺伝子について、野生型マウスおよびPax7 KOマウス筋衛星細胞での発生、成長、筋再生過程における発現パターンを、mRNAレベルやタンパク質レベルで解析を行った。
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