研究概要 |
がん細胞は、周囲の正常組織を破壊しながら増殖し続けて腫瘍を形成し、さらに悪性度を増して周囲の組織に浸潤し、他の遠隔臓器に転移する。このようながん細胞の特性は、正常細胞において、がん遺伝子あるいはがん抑制遺伝子に何らかの変異が生じると発現する。しかし、がん遺伝子あるいはがん抑制遺伝子の変異から浸潤・転移を説明することはほとんどできていない。従って細胞外基質との接着面に形成される浸潤突起(インベードポディア、ポドソーム)についても、その生理的な上流シグナルはごく一部がわかっているにすぎない。 本研究課題において申請者は、浸潤突起形成とイノシトールリン脂質について次のことを見出した。(1)浸潤突起の形成はPI3-kinaseの制御を受ける。(2)浸潤突起形成においてはPI(3,4,5)P3だけでなく、PI(3,4)P2の関与も重要である。(3)PI(3,4)P2の産生は接着斑(フォーカルアドヒージョン)で起こっており、このことが浸潤突起と通常の接着斑との違いの一つである、つまり浸潤突起形成め引き金になっている。 一方破骨細胞は骨基質を分解する際に、骨表面との接着面にシーリングリングと呼ばれる浸潤突起様構造を形成するが、これもPI(3,4)P2の制御を受けている可能性を見いだした。 PI(3,4)P2はその存在量が非常に少ない脂質であり、浸潤突起やシーリングリングのような特殊な構造の制御に関わっていることは大変興味深い。がん浸潤や骨分解を制御する新たなターゲットとして今後の研究の進展が期待される。
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