わが国におけるがんの治療成績は、年々着実に向上しているものの、肝臓がんや肺がんの5年生存率は依然として低い状況にある。がん組織はがん幹細胞から派生することが提唱されており、今後のがん対策としてがん幹細胞の性質を厳密に理解することが必要である。幹細胞画分を分離し、その性質に関連する分子の機能を詳細に明らかにすることができれば、がん幹細胞の性質の理解に貢献できると考えられる。我々のグループは、epidermal growth factor (EGF)ファミリーのメンバーであるAmphiregulin (AREG)による細胞増殖制御機構の解明に取り組んできた。AREGは細胞膜上で切断を受けた後、N末側が分泌型増殖因子として細胞周期を制御する。注目すべきことに、ヒト肝癌細胞株Huh7のSPにおいてAREGが高い発現量を示すこと、そしてAREGはヒト肝がん細胞の悪性腫瘍化に寄与することが報告されている。本研究は、AREGが細胞周期制御に果たす役割を解明することによって、がん幹細胞の本質を理解するための基盤を築くことを目的とした。まず、ヒト肝癌細胞株Huh7をHoechst 33342で染色し、セルソーターを用いて幹細胞画分の分離を試みた。ただし幹細胞分画が検出できたものの、細胞の分取と培養には至らなかった。そこでAREG結合因子を検索し、過去の報告でHuh7の幹細胞画分においても発現が認められるAREG-regulating protein (ARP)を同定した。解析の結果、ARPは遊離型増殖因子の産生量を制御する作用を持つことが明らかになった。以上の結果から、AREG及びARPによる増殖因子の産生制御が幹細胞の細胞増殖制御機構の一端を担っていることが示唆された。
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