日本における慢性腎臓病患者は、現在1300万人以上(成人約8人に1人)とも言われる。更に病態が進行した慢性腎不全による透析患者数は、2006年末現在26万人(全国民約500人に1人)以上に上る。その患者数は毎年約1万人ずつの増加傾向にあり、国民の医療費を圧迫する一因となっている。慢性腎不全の約90%は糸球体疾患が占めることから、糸球体疾患の病態・進展機序解明は急務の課題である。しかしながら、糸球体の構造・生理機能が極めて複雑で特殊であることから、適切な実験系の確立が困難であり、分子レベルの解析は大きく遅れている。 これまでに我々は、独自に樹立したポドサイト特異的aPKCλ欠損マウスが、腎糸球体濾過装置の主役で1あるスリット膜の機能不全に起因する蛋白尿・糸球体変性を呈して腎不全に陥ることを明らかにし、このマウスが新しいヒトの糸球体疾患モデルマウスとして極めて有用であることを確認した。更に分子生物学的解析も進め、aPKCがスリット膜構成成分の正常な分布に必要であり、糸球体疾患ではaPKCの機能異常が関与する可能性が示唆された。また、aPKCによる細胞膜環境(膜ドメイン)制御についても新知見を得た。 以上の結果は、もしaPKCの機能異常を捉えられれば、糸球体疾患の早期診断、治療方針決定、治療効果判定などに有用であることを示唆している。これらの成果を総括し、平成20年度は論文発表(2件)、学会発表(国際学会2件、国内学会1件、特別講演1件)を行った。 本研究成果の意義は社会的にも認められ、新聞紙上にて取り上げられた(読売新聞平成21年2月22日、科学新聞平成21年1月23日)。
|