上皮性卵巣癌組織型の中で、明細胞腺癌(CCA)は早期で発見される率が高いにも関わらず再発率が高く、また化学療法に抵抗性を示す悪性度の高い組織型である。われわれは先にCCA細胞株のプロテオーム解析から、CCA細胞におけるアネキシンIV(ANX4)の発現量が他の卵巣癌組織型と比較して著しく高いことを見いだした。またCCA細胞におけるANX4の発現をRNA干渉により抑制すると、細胞増殖能の有意な低下が見られたことから、ANX4が新しい分子標的治療の候補となることが示唆される。ほ乳類には12種類のANXアイソフォームが存在し、どれもが構造面でカルシウム結合ドメインを保有することが知られているが、それぞれの生理的役割はほとんど明らかになっていない。そこで本研究では、CCAにおけるANX4と相互作用するタンパク質を解析することで、ANX4の生理機能を明らかにすることを試みた。CCA細胞株OVISEからNP-40を含む緩衝液を用いてタンパク質を抽出し、一次元目にブルーネイティブPAGE、二次元目にSDS-PAGEで分離後、ウエスタンブロットを施行した。その結果、ANX4は単量体(36kDa)よりも遥かに大きい約200kDaおよび400kDaのスポットとして検出された。これら二種のスポットは、EGTA処理を行ってもその泳動度に変化は認められなかった。したがって、ANX4はCCAにおいてカルシウムイオン非依存的に複合体を形成して機能することが示唆された。そこでマグネットビーズを用いた免疫沈降法によりANX4複合体を精製し、その構成成分をSDS-PAGEで分離後、蛍光染色にて検出されたバンドを質量分析装置により同定した。またこれとは別に、本精製標品をショットガン法により解析した。その結果、翻訳伸張因子1αを代表として、核酸結合性のタンパク質が多数同定された。ANX4の生理的機能についてはよく分かっていないが、今回同定されたタンパク質は、その機能の解明や新規抗悪性腫瘍薬の開発に繋がることが期待される。
|