研究課題
平成20年度の研究で、マイクロアレイによる染色体構造異常のスクリーニングを30症例で行った。その結果、大田原症候群の女児症例で第9染色体長腕(9q33.3-q34.11)の微細欠失を同定し、この欠失領域に位置するS7XBP1遺伝子について他の症例で変異解析を行ったところ、4例でヘテロ接合性ミスセンス変異を認めた。これらの変異は対照健常人250名に認められず、3つの変異については新生突然変異であることを確認した。変異は、すべて多種間で高度に保存されたアミノ酸の置換をもたらす変異であった。変異の認められた症例の核磁気共鳴画像法(MRI)検査では、明らかな脳形成異常は認められず、大田原症候群に特徴的なsuppression burstパターンの脳波を示した。また、STXBP1変異タンパク質の生化学的解析を行い、変異STXBP1タンパク質は正常型と比べてタンパク質の折りたたみが不十分であり、熱に対する安定性が著しく低下していることを明らかにした。更に、シナプス小胞の開口放出に必須のSTX1Aタンパクとの結合を調べたところ、変異タンパク質では開口放出を促すタイプのSTX1Aとの結合が著しく低下していることが分かった。これらの所見から、STXBP1は大田原症候群の原因遺伝子であるとの報告を世界に先駆けて報告した(Saitsu et. al., Nature Genetics, 2008)。これは、乳児期発症の難治性てんかんにおける、常染色体上に位置する初めての責任遺伝子の同定でもある。この発見は、シナプス小胞の開口放出障害が新生児-乳児期発症の難治性てんかんの病態に関与していることを強く示唆しており、全く新しいてんかんの発症機序を提唱するものである。
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