肺癌組織における核内受容体と喫煙の関係を明らかにするため次の解析を行った。タバコ煙成分の核内受容体(NRs)への結合能の影響は、DMSO中に抽出した煙成分(cigarette smoke condensate : CSC)を用いた。HEK293に転写因子であるNRs[steroid and xenobiotic receptor (SXR)、constitutive androstane receptor(CAR)、retinoid X receptor(RXR) α、RXRβ、RXRγ、estrogen receptor(ER)α、ERβ]とそれぞれの認識配列(転写開始に必要な配列を含む)を導入し、luciferase(Luc)assayを行った。SXR、CAR及びERαにおいて、コントロールと比して有意なLuc活性の増加がCSC添加によって認められた。RXRおよびERβにおいては、CSC添加による変化は認められなかった。ヒト組織を用いた喫煙の影響に関しては、種々のNRsによる転写調節を受けることが知られているCYP19の発現に注目した。肺癌組織(癌部及び非癌部)59例におけるCYP19の発現を定量的PCRにて確認した。喫煙の評価はBrinkman指数(BI)を用い、BIとCYP19 mRNAの発現との相関を解析した。肺癌組織におけるCYP19の定量的PCRの検討では、非癌部と比較して癌部で有意にCYP19の発現が高かった。喫煙との関係では、非癌部と癌部のいずれにおいてもBIの高い症例でCYP19の発現が有意に高かった。以上のことから、CSCは異物の処理に関わるNRsのみならず、ERαに作用することによってエストロゲン環境を修飾すると考えられた。今後、さらにCSC添加によって変動する遺伝子群を確認し、喫煙の肺組織への影響を明らかにする。
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