研究概要 |
肺腺癌の発生においては、前癌病変と考えられる異型腺腫様過形成から非浸潤癌(上皮内癌)である細気管支肺胞上皮癌を経て浸潤癌に至るとする多段階発癌機序が想定されている。この過程において付加的遺伝子異常を生じ、浸潤癌の性質を獲得すると考えられる。近年、各種悪性腫瘍においてcancer stem cellの存在が示唆されており、腫瘍ごとに異なったcancer stem cellのマーカーが同定されつつある。肺癌においては、CD133がcancer stem cellのマーカーである可能性が最近報告された。組織標本においてcancer stem cellを同定できれば、多彩な組織像を呈する肺腺癌混合型においてcancer stem cellの局在の特定が可能となり、発癌において付加的に生じると考えられる遺伝子異常と組織像の対比を行い得ることから有用と考えられる。そこで本年度は、組織切片上でのCD133陽性癌細胞の免疫組織学的同定を行った。対象とした症例は、異型腺腫様過形成1例, 細気管支肺胞上皮癌6例(粘液産生型4例および粘液非産生型2例), および肺腺癌混合型7例。自験外科切除例のホルマリン固定パラフィン包埋ブロックから4μm薄切切片を作製し、抗CD133抗体を用いて通常の方法で免疫染色を行った。肺腺癌全例および異型腺腫様過形成1例において一部の癌細胞の細胞質および核に淡い陽性像が見られたものの、細胞膜には明らかな陽性像は見られなかった。同様の陽性像は非癌部の肺胞上皮細胞においても認められることから、非特異的反応の可能性も考えられた。一般に、cancer stem cellは癌細胞の数%以下の頻度を占めるのみとされることから、前癌病変あるいは早期癌の微小な病変からの検出は難しい可能性もあり、抗原賦活法等の手技の改良も含めさらに検討の余地が示された。
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