近年、癌の発生・進展には癌細胞そのものの分子異常のみではなく、癌微小環境、とりわけ癌組織における間質細胞の関与が示唆されてきている。今回、前立腺癌における癌間質細胞の意義を調べるために以下の研究を行った。 まず、網羅的遺伝子発現解析によって、前立腺癌組織 (癌間質細胞が含まれる) では発現がみられるにもかかわらず前立腺癌細胞株 (癌間質細胞が含まれない) では発現がみられない遺伝子として、periostinに着目した。次に、前立腺癌組織におけるperiostin発現の局在を調べるため、前立腺癌手術検体から作成した組織マイクロアレイおよび抗periostinポリクローナル抗体を用いて免疫染色を行った。免疫染色の結果、periostinは前立腺正常上皮細胞および癌細胞では発現はみられず、間質細胞のみで発現していることが明らかになった。periostin発現は特に癌細胞周囲の間質細胞で強く認められた。periostin発現は非癌部の正常上皮周囲の間質細胞では24例中1例 (4%) のみで認められたが、癌細胞周囲の間質細胞では67例中49例 (86%) において認められた。以上のことから、periostinは前立腺癌間質細胞において発現しており、前立腺癌の発生あるいは進展に影響していることが示唆された。また、periostin免疫染色は前立腺癌の病理診断におけるマーカーとしての有用性も期待される。今後、in vitroの実験系を用い、前立腺癌間質細胞から分泌されるペリオスチンが前立腺癌細胞の増殖に与える影響について検討する予定である。
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