研究概要 |
小細胞肺がんで高頻度に認められる細胞接着分子TSLC1/CADM1の特異的スプライシング・バリアントの過剰発現に注目し、その病理学的実態を把握し、その機能を明らかにすることを目的としている。平成20年度には、小細胞肺がん細胞株および小細胞肺がん組織におけるTSLC1の発現を解析し、高い確率でTSLC1の発現が認められることを見出した。TSLC1には細胞膜直上のエクソン8A, 8B, 8C を含む多様なスプライシング・バリアントが存在し、上皮では8A型、脳・神経では8(-)型、精巣では8B, 8A+8B型が存在するが、TSLC1発現が見られる小細胞肺がん細胞株では正常上皮では見られない8A+8B型スプライシング・バリアントが8A型とともに認められた。そこで、TSLC1の発現が見られない小細胞肺がん細胞株に8A+8B型および8A型の全長TSLC1cDNAを外因性に発現する安定細胞株を作成した。TSLC1発現による形態変化はみられず、また、軟寒天培地中のコロニー形成能にも差は認められなかった。ヌードマウスにおける腫瘍形成能を比較したところ、空ベクター導入細胞に比べ、TSLC1発現細胞株では腫瘍形成能が亢進し、TSLC1がSCLCの悪性増殖、転移能を抑制する分子標的であることが示唆された。さらにこれらの細胞およびTSLC1を発現している小細胞肺がん細胞の培養上清から、スプライシング・バリアント特異的なTSLC1分解産物を検出できることを発見し、小細胞肺がん診断マーカーとして利用できる可能性を見出した。
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