研究概要 |
本年度はヒト外科的切除肝材料を用いて、肝細胞癌および前癌病変におけるセネッセンス関連分子(senescence-associated β-galaotosidase, p21, cyclin D1)発現と肝細胞癌関連分子(CD34, cyclin A, Ki-67)発現について検討を行った。さらに肝ステム細胞関連分子(cytokeratin(CK)7, CK19, CD56, c-kit)発現について免疫組織学的に検討を行った。 セネッセンス関連分子の発現は肝硬変で認められ、肝ディスプラジア結節では消失していた。腫瘍発生過程におけるセネッセンス状態は前癌病変に出現することが報告されており、肝硬変はすでに肝細胞癌の前癌病変である可能性が示唆された。また、悪性腫瘍ではセネッセンスからのエスケープがあると推察されており、前癌病変と考えられている肝ディスプラジア結節は生物学的に悪性転化している可能性が示唆された。今後のセネッセンス誘導因子同定の研究により、肝発癌の病態解明進展が期待される。 近年、肝硬変における肝ステム細胞の活性化が報告されつつある。肝硬変ではセネッセンス形質を示す肝細胞と肝ステム細胞マーカー陽性細胞は両者いずれも隔壁辺縁部に局在し、存在部位や出現頻度において密に関連していることが明らかとなった。肝ステム細胞に由来する肝癌が存在する可能性が示唆された。将来的に肝ステム細胞はヒト再生医学治療に利用されることが予想され、肝ステム細胞の生物学的特質解明は重要な研究課題である。現在までに発癌への関与について確立した見解はなく、本研究は肝ステム細胞研究に寄与すると思われる。
|