20年度は甲状腺病変の検体を収集しつつ、液状処理細胞診(liquid-based cytology ; LBC)標本で形態計測、免疫細胞化学的、分子生物学的手法を用い収集した症例の大半を占める悪性の甲状腺乳頭癌(PC)と良性の腺腫様甲状腺腫(AG)の鑑別診断に関して検討した。 形態計測の測定項目のうち、両者で統計学的な有意差を認めたものは核最大径、核形状係数(円形度)、核面積/細胞質面積(N/C比)であった。免疫細胞化学ではCalectin-3、CD15、高分子量サイトケラチン(34βE12)、HBME-1、CA19-9、CK19の各抗体を用いて酵素抗体法を実施した。いずれの抗体もPCで陽性率は高いものの、AGでも一部陽性となった。これらの抗体を組み合わせて結果を判定することにより両者の鑑別が可能になると考えられた。分子生物学的手法としてFluorescence in situ hybridization (FISH)法を用い原癌遺伝子であるc-mycと同遺伝子が存在する8番染色体の異数性を調べた。まず、LBC標本でFISH法の実施が可能なことを確認した。PC、AGともc-mycの増幅、8番染色体数の異数性は見られず両者の鑑別には有用ではなかった。 従来の細胞診は細胞の形態学的な所見のみで診断することが多く、主観的である。また、標本を複数作製することが困難である。本研究で用いたLBCは標本を複数作製し、様々な解析法に応用できるので、それらから得られたデータに基づく客観的な診断が可能である。 21年度は引き続き症例を増やし、形態計測、免疫細胞化学的、分子生物学的手法を用いて甲状腺病変の鑑別診断に有用なバイオマーカーを検索する。
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