甲状腺細胞診における液状処理細胞診(Liquid-Based cytology ; LBC)法と従来法との細胞像の差異およびLBC用保存固定液中での経時的細胞形態の変化を形態計測的に検討した。さらに形態計測と免疫細胞化学的手法を用いて客観的な細胞診断を試みた。 細胞像の差異はLBC法では従来法と比較すると核面積は72.5%、細胞質面積は74.6%に低下し、細胞の収縮が顕著であった。また、乳頭癌の症例の核の円形度が従来法の平均0.920からLBC法で0.877と有意に低下した。LBC法では細胞の収縮が生じ核異型が強調されることを形態計測的に明らかにした。LBC用保存・固定液中で4週間保存した細胞の形態計測値に有意な変化は認められず細胞を安定に保存可能であることを確認した。LBC保存・固定液に保存した甲状腺病変:悪性群57例(乳頭癌55、濾胞癌2)、良性群56例(濾胞腺腫16、腺腫様甲状腺腫37、バセドウ病3)計113例の細胞像の形態計測を実施した。症例ごとに核面積、核最大径、核円軽度、核面積/核面積比(N/C比)の平均値、変動係数を算出し、ステップワイズ法を用いた線形判別分析を行った。5種の疾患を判別(正診)する確率は68.1%であった。悪性群と陰性群の鑑別に関しては、感度(真の悪性率)83.8%、特異度(真の陰性率)100%であった。上記の113症例に関してGalectin-3、CD15、高分子量サイトケラチン、HBME-1、CA19-9、CK19の6種の抗体を用いた免疫細胞化学検討(酵素抗体法)を実施した。いずれの抗体も乳頭癌で高い陽性率(89.1~100%)を示したが他の良性疾患でもしばしば陽性となった。しかし良性群で6種類の抗体に全て陽性となった症例は1例のみであった。今後、濾胞性腫瘍の症例を蓄積するとともにさらに診断精度を高める有用なマーカーを探索する必要がある。
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