研究概要 |
本研究では生体肝移植後長期経過例におけるグラフトの老化・寿命に関してfluorescence in situ hybridization(FISH)法を用いて検討した。10年以上の長期観察例約200例のうち、慢性拒絶などの既知のグラフト不全群と肝機能異常のないものの原因不明の線維化がみられる線維化群との2群に分け、該当症例は各10例であった。移植時のドナー肝(正常肝)を起点に、経過中の数回の生検も含め、経時的に移植肝組織の肝細胞に焦点を当て、テロメア配列特異的PNAプローブ(DAKO)を用いてFISHを施行、さらにconfocal laser scanning microscopy(Biozero, Keyence)を使用し、標本上の蛍光シグナルの撮影を行った。H20年度に購入した米国モレキュラーデバイス社の画像解析ソフトを用いて、撮影した画像上で個々の標本における肝細胞核のテロメアの光度を定量化した。FISHの手法および画像解析の条件設定についてはH20年度内に確立し、対照として40例の正常肝(ドナー肝)の加齢によるテロメア長の短縮率を算出した。今年度は長期生存例における移植後の合併症時の生検と肝機能異常のないプロトコール生検において、経時的なテロメア長の解析を進めた。肝移植後早期にドナー年齢に関係なく、移植時の虚血、再潅流障害によると考えられる急激なテロメア長の短縮がみられた。グラフト不全群と線維化群いずれも10年後のテロメアシグナルは対照例の加齢によるテロメア長の短縮率よりも著明に低下し、両群で差はなかった。ところがグラフト不全群では老化を示唆する肝細胞核の倍数体が増加しており、見かけ上テロメア長の輝度が上昇したとも考えられた。来年度は倍数体の解析を中心に、さらにグラフトの老化の知見を蓄積していく予定である。
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