研究概要 |
ヒト軟部肉腫は発生頻度が低くかつ疾患の種類が多く, ひとつの疾患において組織亜型が多彩で, しばしば確定診断に難渋する. 近年, 多くの軟部肉腫において腫瘍特異的な遺伝子異常が知られており, それらを利用した分子病理学的診断の有用性が指摘されている. 代表的な軟部腫瘍の一つである粘液型脂肪肉腫はt(12 ; 16)とこれに基づくTLS/CHOP融合遺伝子を有しており, 本研究にて我々はホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍組織を試料としてFISH法およびPCR法を行い, 同遺伝子異常を検出すると共にいずれの方法が検出感度の点で優れているか比較検討することを主な目的としている. 加えて, FISH法では同一腫瘍組織内で形態学的に異なる部(粘液腫様部, 白色脂肪部, 褐色脂肪部並びに円形細胞部)毎に解析し, 同変異遺伝子の腫瘍内局在の状況を明らかとしたい. 本研究遂行の過程は(1)対象症例の収集, (2)RT-PCR法によるTLS/CHOP融合遺伝子の有無の検索, (3)FISH法によるCHOP遺伝子再構成の有無の検索に分けられ, 本年度は主に過程(1)と(2)を施行した. 約20の対象腫瘍試料においてRT-PCRでは有効な長さ, 質のtRNAの採取に成功したのは少数で, かつそれらにおいても融合遺伝子の存在を示唆するバンドは検出できなかった. 本試料からのRT-PCRはTLS/CHOP融合遺伝子の検出には多くの場合不適と考えられる. 腫瘍のホルマリン固定状況の良し悪し, 低細胞密度なために採取細胞数が少ないことが検出不可の要因に挙げられる. 次年度以降は過程(3)のFISHによる同遺伝子異常の検出を試み, 検出感度がRT-PCRと比して優れ, 再現しやすいことを示したい.
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