研究課題
腫瘍組織中の癌細胞は、腫瘍微小環境を構成する種々の間質細胞や液性因子との相互作用が要求されるため、単独培養された癌細胞とはその形質が大きく異なり、これはしばしば実験段階と臨床現場間における抗がん剤の効能の格差にも繋がる。従って、生体内で有効な癌治療法を開発するためには、腫瘍組織としての癌の特性を理解することが極めて重要となる。我々は、高頻度に肺転移を引き起こすヒト滑膜肉腫をモデルにして、腫瘍細胞と血管内皮細胞との相互作用が腫瘍血管新生に極めて重要であることをin vitro共培養システムおよびin vivoマウス試験により明らかにし、さらにこれらの腫瘍血管新生を効率的に抑制するチロシンキナーゼ阻害剤を突き止めた。ヒト滑膜肉腫細胞をヌードマウスの皮下に接種後に形成された腫瘍では、CD31陽性の腫瘍血管新生が豊富に観察された。この腫瘍組織内ではヒト血管内皮細胞増殖因子VEGFのmRNAが豊富に検出されたことから、ヒト滑膜肉腫細胞が血管内皮細胞を腫瘍組織へ導引するために積極的にVEGFを分泌している可能性が示唆された。実際、滑膜肉腫細胞の培養上清には、ヒト臍帶静脈内皮細胞(HUVECs)の走化能を促進させる能力があり、Srcチロシンキナーゼ阻害剤により滑膜肉腫細胞からのVEGFの発現を抑制させるとこの走化能が有意に低下した。さらに、当該阻害剤を腹腔内投与したマウスの腫瘍組織では腫瘍血管新生が障害されており、腫瘍サイズも有意に低下した。これらの結果は、腫瘍細胞と間質細胞との相互作用が腫瘍の進展・増殖に重要な役割を果たしていることを示している。また、当該チロシンキナーゼ阻害剤は、上述の血管新生阻害作用に加えて、腫瘍細胞および血管内皮細胞自体の増殖能・運動能をも抑制する能力を有していることが当該研究より明らかとなった。これらの統合的かつ相乗的作用により、本薬剤は、滑膜肉腫の治療において極めて有効であると期待される。
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http://www.med.hokudai.ac.jp/~clilab-w/