研究概要 |
Lipopolysaccharide(LPS)により発現誘導された「Protease-activated receptors(PARs)がPARs自身による凝固・炎症反応増強機序に加えて、VEGFの発現誘導あるいはVEGF発現抑制からさらなる炎症反応増強とアポトーシスにより敗血症性臓器不全発症に深く関わっている」、という仮説を証明することを目的として研究を継続した。 2008年度は、脳、腎臓を標的臓器とした研究から開始した。LPSの腹腔内投与モデルの解析から、PAR1,2,3,4蛋白が脳、腎の2臓器に発現すること、これらPARsの発現が転写段階で調節を受けてLPSによる発現誘導が起こること、PARsを介した炎症凝固反応連関が存在すること、さらにPAR2 blocking peptideが腎臓機能障害を改善することを確認された。 2009年度は、同一モデルを用いて、急性肺障害(acute lung injury: ALI)に関する解析を行った。LPS投与後、ラット肺にはVEGFタンパク発現の低下、VEGF受容体発現の変化(Flt-1増加、Flk-1低下)、endothelial nitric oxide synthase(eNOS)低下が誘導され、これらの変化はアポトーシス関連タンパクであるcaspase 3, BAX,の増加、Bcl2, pAktの低下を伴うことを確認した。以上の結果からLPS誘発性のVEGF情報伝達経路の変異は、肺組織内における微小循環障害や血管透過性の亢進による機能的障害(ARDS)のみならず、血管新生系の低下やアポトーシス亢進を通じて、急性期機能障害から慢性期器質病変に及ぶ、ALI/ARDS発症進展の多彩な病態形成に関連することが示唆された。
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