近年、「がんは"がん幹細胞"を起源に発生する」という新しい説が提唱されている。ヒトでは様々な腫瘍においてがん幹細胞が存在することが相次いで報告されたが、実験動物の腫瘍については、その存在自体が立証されていない。そこで、本研究では、がん幹細胞の特徴的な細胞周期に着目し、生体内で細胞周期をGFPで標識する独自の技術を用いて、マウスの腫瘍において"がん幹細胞"が存在することを証明することを目的としている。 本年度、マウスの消化管において細胞周期を標識することが出来るか検討し、Hisotoneタンパク質をGFPで標識することが可能なトランスジェニックマウスであるHistone-GFP inducibleマウスを用いることでGFPの強度により細胞周期が識別可能であることを見出した。GFPで標識することにより、細胞周期の異なる細胞をFACSで分取することが可能になり、腫瘍細胞にこの方法が出来れば、腫瘍組織中から細胞周期の遅いがん幹細胞を選択的に分離する有用な方法となる。しかしながら、同時に、導入遺伝子であるGFPの発現が加齢に伴い減少することが確認された。がんの形成には時間を要するため、担がん動物はある程度の週齢に達してしまうため大きな障害になると考えられたが、この問題を解決すべく、現在、同マウスと早期に消化管腫瘍を多発するApc(Min/+)マウスの交配を進めている。Apo(Min/+)マウスはデキストラン硫酸の飲水投与により、より早期に大腸腫瘍が誘発出来ることが報告されており、加齢によるGFPの発現減少の問題は解決出来ると考えている。 また、同時に、消化管組織の細胞培養および組織培養系の確率を進めている。これは、in vitroで腫瘍幹細胞としての性質を検討するためには必須の実験系である。
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