研究概要 |
成人T細胞白血病(Adult T cell Leukemia: ATL)は、ヒトTリンパ球指向性ウイルスタイプ1 (Human lymphotoropic virus type 1 : HTLV-1)の感染によって引き起こされる予後不良の腫瘍性疾患で、我が国では将来的に5〜10万人がATLを発症すると予測されているが、未だ有効な治療法が見つかっていない。本研究は、長谷川らが開発したATLのマウスモデルを(Nat Med, 12(4): 466-72. 2006)を用い、この疾患の発症に深く関わっているとされているNFkB経路を上流で選択的に阻害する新規薬剤を使った治療実験を行い、臨床へ還元できる有効かつ安全な新しい治療法を開発することを目的としている。 平成20年度はin vitroとvivoでの薬剤の効果をマウスモデルを用いて検討した。まず薬剤を培養液中に添加することで、in vitroでマウスモデルの白血病細胞(マウスATL細胞)に対してアポトーシスを誘導し、DNAの断片化を引き起こすことが、アガロース電気泳動法およびTUNEL法にて確認された。次にNOD-SCIDマウス腹腔内にマウスATL細胞を1×10〜6個移植し、薬剤を腹腔内投与することでin vivoでの薬剤の効果を検討したところ、薬剤未投与群では生存期間が30日前後であったものが、薬剤を800μg/day投与した群では最大で42日間生存するものが観察され、約1.3倍の延命効果が認められた。また薬剤投与群では組織ヘの腫瘍細胞の浸潤の程度が低く抑えられていることが病理組織学的に確認された。このように新規NFkB阻害剤はin vivoとvitroの両面でATLモデルマウスに対して一定の効果を示すことが明らかになったため、平成21年度は、薬剤の作用メカニズムについてのより詳細な検討を中心とした研究を進めているところである。
|