研究概要 |
β-Catenin依存性シグナルは肝細胞において中心静脈周囲型の遺伝子発現を誘導するとともに、門脈周囲型の遺伝子発現を抑制する事で、肝小葉内の領域特異的遺伝子発現の確立に必須の役割を果たしている。このため肝細胞特異的β-cateninノックアウトマウスは肝小葉内での領域特異的遺伝子発現が完全に失われているが、肝細胞特異的Dicerノックアウトマウスが門脈周囲領域に特異的な遺伝子の局在のみが失われるという、部分的に一致する表現形を示す事を見いだした。この事から、β-cateninによる遺伝子発現の局在性制御にDicerもしくはDicerによって生成されるmicroRNAが重要な役割を果たしていると考えられた。これらのマウスモデルでDicer,microRNAなどの発現解析を行った結果、Dicerはβ-cateninの下流で門脈周囲領域特異的な遺伝子の発現抑制に必須の役割を果たしているが、β-cateninの直接の制御下にはなく、その関与は間接的なものである事が明らかになった(Sekine et al. J Pathol. 2009)。 肝細胞特異的β-cateninノックアウトマウスの解析で同定されたβ-catenin下流遺伝子の発現をヒト肝細胞がんで検索し、変異型β-cateninを発現している肝細胞がんで有意に高発現している遺伝子を複数同定した。このうちいくっかのものは、これまでβ-catenin変異を伴う肝細胞がんの臨床病理学的特徴とされている表現型に関連している可能性が考えられ、現在、培養細胞などを用いてその機能的解析を行っている。
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