生体の恒常性を脅かすようなストレスは、自律神経とHPA axisを介して、ストレス反応を引き起こし、生体の恒常性を維持するように働く。ストレスによって誘導された炎症性サイトカインは、視床下部のCRH(corticosterone releasing hormone)の分泌を促進し、下垂体からのACTH(Adrenocorticotropic Hormone)の分泌を介して副腎皮質からグルココルチコイドの分泌を誘導する。このHPA axisの活性化は、自律神経系と並んで、生体の恒常性の維持に重要な役割を担っている。 副腎、脳下垂体腫瘍に起因する全身性グルココルチコイド作用過剰は、内臓脂肪型肥満、インスリン抵抗性、糖尿病、高脂血症、高血圧症などを特徴とするクッシングシンドロームを引き起こす。この病態は、メタボリックシンドロームと良く似ていることから、以前より、グルココルチコイド過剰がメタボリックシンドローム発症に重要な役割を果たす可能性が示唆されてきた。また、肥満に伴うインスリン抵抗性は、副腎除去によって改善されることから、糖尿病の発症に高レベルのグルココルチコイドが悪玉として働き、グルココルチコイドレベルの調節機構の破綻が糖尿病発症の原因の一つである可能性が示唆されている。申請者は、ACTH受容体(MC2R)遺伝子改変マウスを作成、解析してきた(Chida et al. PNAS 2007)。ACTH受容体は、副腎皮質以外では、脂肪細胞に発現していることが明らかになっており、ACTHは、in vitroで脂肪分解を引き起こすことが知られている。このことから、ACTHが脂肪細胞の肥大化、蓄積に重要な役割を果たしている事が推測される。しかし、その生体内における重要性、病態発症における役割に関しては、適切なモデル系、評価系が無かったために、明らかでない。本研究では、ACTHおよびグルココルチコイドの脂肪細胞に対する影響について、ACTH受容体遺伝子改変マウスを用いて、解析を行い、ACTH受容体を標的とした肥満、糖尿病に対する新規治療戦略を打ち立てることを目的として、研究を行った。本年度は、MC2R KOマウスにおける高脂肪食誘導肥満に対する影響を解析したところ、MC2R KOマウスは、高脂肪食誘導肥満に対して抵抗性であることが明らかになった。通常食下、高脂肪食下においても、ステロイド投与によって、野生型と同様に脂肪量の増加を伴って、体重の増加が起こるが、野生型のレベルにまでは、回復しなかった。血清の解析により、ステロイド投与によって、野生型と同様なレベルにまで血中ACTHレベルが低下したことから、ステロイド含有水を飲ませることで、生理的なレベルのコルチコステロンレベルになったと考えられた。しかし、カテコールアミンレベルは、回復していないことを見いだしていた。今後、さらなる解析が必要である。
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