本研究課題では、骨髄間葉系幹細胞(Multipotent mesehchymal stromal cells : MSCs)の筋分化能を利用して、重症の遺伝性筋疾患であるDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)に対する細胞遺伝子治療への応用の可能性を検討した。当研究では、MSCsの骨格筋分化誘導の簡便な方法を確立し、続いてDMDモデルマウスおよびイヌへの移植実験においてMSCsの生着能、筋分化能の検討を行った。 イヌの骨髄細胞より増殖力旺盛なCD271陽性分画を回収し、移植に十分な細胞数を調整した。MSCsに筋分化誘導スイッチとしてMyoDを一過性強制発現することにより、従来法に比べて短期間で簡便な筋分化誘導方法を確立した。次に、MyoDによるMSCsの筋分化誘導能を利用して、マウスへの局所的移植を行ったところ、筋組織において移植細胞の生着が認められた。そこでこの移植条件を基に、イヌへの同種移植を試みた。移植効率を上げるため、dog leukocyte antigen (DLA)の合致したペアより得られた個体間でドナーとレシピエントを選出した。正常犬由来MSCsをレシピエント犬の前肢および後肢に局所移植したところ、移植領域に3ヶ月間にわたりMSCsが生存・生着していることが確認できた。生着したMSCsは筋線維様の形態を示しており、筋分化マーカーの発現を認めたため、筋再生過程であることが示唆された。さらに、大腿動脈を介した投与を行うことにより、局所投与と比較して、より広範囲な生着が認められた。DMD患犬では免疫抑制剤による副作用が懸念されるため、免疫抑制剤を使用せずに移植実験を行ったが、DLAを一致させることにより、長期間に渡り移植細胞の生着が可能であり、生着後は筋線維様の形態を示した。 以上の研究結果より、MSCsの筋分化能を利用したDMDに対する移植の可能性が示された。この成果を基に、さらに将来的にはDMD患者自身のMSCsに治療遺伝子を導入することで自家移植の系へ発展する可能性が示唆された。
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