Helicobacter pylori(H. pylori)感染は慢性胃炎、腸上皮化生および胃癌の発生に重要な役割を果たす。腸上皮化生は胃癌の前癌病変とみなされてきたが、その発生機構は未だ不明である。また、胃と腸への異なる分化を決定付ける機構として上皮間充織相互作用の重要性が示唆されているが、この観点から胃粘膜における腸上皮化生発生機構の説明を試みた報告は皆無である。本研究ではH. pylori感染スナネズミ胃発癌モデルを用い、胃粘膜から上皮・間質成分を分離採取し、胃と腸の分化に関与することが知られる転写因子群の発現レベルの変化を解析する。 6週齢、雄のSPFスナネズミ(系統MGS/Sea)60匹にH. pyloriを胃内接種し、感染後2週目より20週間、化学発癌物質であるN-methyl-N-nitrosourea(MNU)10ppmを飲水投与した。対照群として、H. pylori非感染・MNU非投与群(10匹)を用意した。 H. pylori+MNU群および対照群は52週経過観察した後に解剖し、腺胃の一部から凍結材料を採材した。残る腺胃組織から病理標本(HE染色)作製を行い、胃癌および腸上皮化生の発生頻度を検索した。今後、凍結標本を用いて胃癌・腸上皮化生・正常粘膜の上皮・間質それぞれからRNAを抽出し、転写因子発現レベルの差異を解析する予定である。これによって、胃粘膜の腸型化における上皮・間質の転写因子レベルでの相互関係を明らかにし、胃発癌メカニズム解明の糸口となることが期待される。
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