ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染は慢性胃炎および胃癌の発生に重要な役割を果たす。本研究の目的は、ピロリ菌感染スナネズミモデルを用いて、胃粘膜の組織学的変化における上皮と間質の相互作用を解析することである。 6週齢、雄のSPFスナネズミ60匹にピロリ菌を胃内接種し、感染後2週目よりメチルニトロソウレア(MNU)を10ppmの濃度で20週飲水投与した。対照群として、ピロリ菌非感染・MNU非投与群を用意した。実験開始から52週の経過観察後、ピロリ菌+MNU群(中途死亡例等を除く54匹)および対照群を解剖し、腺胃の一部から凍結材料を採材した。残る腺胃組織から病理標本を作製し、胃癌の発生頻度を検索した。その結果、ピロリ菌+MNU群では54匹中29匹(53.7%)に胃癌の発生が認められ、うち24例が高分化型腺癌、5例が低分化型腺癌であった。対照群に胃癌の発生は認められなかった。 凍結標本から上皮・間質成分を効率よく分離するため、典型的な慢性胃炎および胃癌を有する個体を選別する必要があると考えられた。そのため、各個体の慢性胃炎の強弱および炎症関連因子mRNA発現の程度について詳細な検討を行った。慢性胃炎の指標として、幽門腺と胃底腺それぞれにおける好中球浸潤・単核細胞浸潤・腺管の異所性増殖・腸上皮化生の程度について検索したところ、ピロリ菌+MNU群は対照群と比較して全ての項目で有意な上昇がみられた。また、相対定量リアルタイムRT-PCR法により、ピロリ菌感染に関与することが知られる代表的な炎症関連因子(IL-1β、TNF-α、iNOS、COX-2)のmRNA発現を解析した。 以上の実験結果から、胃癌および腸上皮化生を有するもの、あるいは典型的な慢性胃炎像を呈する個体を抽出した。今後、それらの凍結標本から上皮・間質ごとにRNAを抽出し、転写因子発現レベルの差異を解析する予定である。
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