エキノコックス症は、世界的規模で深刻な被害をもたらしている人獣共通寄生虫症である。わが国でも北海道全域に高度な流行が見られる。本症は、致死的な疾病であるにも関わらず、これを根治できる治療薬は未開発である。本研究課題では、宿主体内におけるエキノコックス増殖活性と関連して発現レベルが変化する虫体遺伝子群を、発現遺伝子データベースに基づくDNAマイクロアレイ解析により選出することを目的とする。これまでに、エキノコックスの好適な中間宿主であるコットンラットに対してエキノコックスを接種し、その体内で虫体を活溌に増殖させた。得られた虫体を材料としてmRNAを抽出し、これをもとにしてV-capping法により幼虫期エキノコックスの完全長cDNAライブリーを作製した。さらに、エキノコックスの好適な終宿主であるイヌに虫体を人工感染させ、感染犬の剖検により得られた成虫体からも同様の方法に従って完全長cDAAライブラリーを作製した。品質の高いDNAマイクロアレイの作製をするために、得られた塩基配列情報のコドン読み枠の確認、相同配列のクラスタリング、既存の遺伝子データベースとの相同性の確認、宿主由来遺伝子の除去を中心とする情報整理を実施した。最終的に、幼虫期および成虫期のエキノコックスから作製したcDNAライブラリーが含むクローン総数は21678となったが、同一の遺伝子が重複しているものもあった。主要な遺伝子は、リボソームタンパク、EmAgB、アクチン関連、種々の機能不明のタンパクなどであった。これまでに整理されたエキノコックス由来の遺伝子塩基配列情報に基づき、DNAマイクロアレイの作製と遺伝子発現解析を進める予定である。
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