脳マラリアの発症機構を解明し、その治療法を開発することを目的とした。まず、種々のマウス系統を用いて非免疫マウス、再燃マウス(感染マウスに抗マラリア薬を投与し、回復したマウス)、準免疫マウス(多少の免疫を獲得したマウス)を作製した。さらに、B6系統およびCBA系統の再燃マウスはマラリア感染後21〜26日で死亡することが分かった。赤血球寄生率(パラシテミア)は低く、貧血症状も見られなかったことから、それらの死亡原因は脳マラリアであると考えられた。そのことは、組織学的な検死と血液脳関門の破綻によって確認した。一方、Balb/c系統の再燃マウスはマラリア感染後、34日目で死亡した。これらは、高いパラシテミアと重症貧血(ヘモグロビン濃度<5g/dL)を示したことから、重症貧血が原因で死亡したと考えられる。同様の結果は、準免疫状態のマウスでも見られた。これらは、薬剤投与によって作製した再燃マウスおよび準免疫マウスにおいて、脳マラリアが発症することを示唆している。 脳マラリアに対して耐性であることが知られているBalb/cマウスにマラリア原虫を感染させ、さらにヘムを投与した場合、それらは2週間以内にほぼ全滅することが分かった。また、抗酸化剤であり、かつヘムを分解することが知られている還元型グルタチオン(GSH)の合成阻害剤であるブチオニンスルホキシミンを投与したBalb/c系統もマラリア感染後、2週間以内に全滅した。これらの結果は、抗酸化剤および抗炎症剤が脳マラリアに対する治療に応用できることを示しているが、今後、治療効率や安全性などを解明する必要がある。 脳マラリアを発症したマウスでは、脳マラリアを発症していないマウスに比べ、有意に遊離ヘム濃度が高いことが明らかになった。先の結果と合わせて、脳マラリア発症におけるヘムの関与が考えられる。今後、その詳細を解析する予定である。
|