マラリア原虫の赤血球内寄生ステージにおける転写制御機構の分子論は全くといって良いほど解明されていない。特にマラリア原虫ゲノムデータベースには、他種生物において既知の「転写調節因子」のホモログが殆ど存在しないことから原虫独自の因子の存在が予測される。本研究では、原虫に独自な転写調節因子を同定することを目指し、熱帯熱マラリア原虫prx遺伝子のcis-elementに特異的に結合するDNA結合因子の単離同定を試みた。33Lの培養原虫(5X10^<11>cells)より核抽出物110mLsを調製し、そこから5最階のクロマトグラフィーを経て目的の因子を精製した。各精製最階において、cis-elementの配列をプローブとして用いたゲルシフトアッセイをおこない、因子の活性を確認した。精製の結果、30μLの活性を持つフラクションが得られ、これをSDS-PAGEによって展開した結果、目的の因子の候補を3本のバンドに絞り込むことができた。これらのバンドを切り出しLC/MS/MSによる質量解析をおこなった結果、約20種類の候補タンパクが同定された。これらの組換えタンパク質を作製し、prx遺伝子のcis-elementに対する結合活性を確認した結果、候補のひとつに結合活性が認められた(このタンパクを因子Xとする)。因子Xは既に報告されている原虫の転写因子の候補であるAP-2ファミリーには属さない新奇のタンパクであり、新しい原虫独自の転写因子である可能性が高い。以上の結果はマラリア原虫が独自のDNA結合タンパクによって遺伝子の発現を制御していることを示唆している。
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