我が国において、Aspergillus属菌(主にA.fumigatus)が起因菌であるアスペルギルス症は増大の一途をたどっている。A.fumigatusを初めとする糸状菌-宿主相互作用の研究は途上にあり、未解明の部分が多く残されている。さらにAspergillus属菌はその生育過程において、分生子から膨化分生子、そして菌糸へと形態を変える。その形態と共に表面構造も変化することが知られている。しかしながらこのような形態変化を考慮に入れた研究は非常に少ない。これらの解明は真菌認識機構を明らかとするだけでなく、治療・創薬への応用が期待される。 そこで本研究課題では、A.fumigatus各形態と結合する宿主因子の探索・同定・機能解析を目的として研究を進めている。平成22年度には、昨年度検討した条件のもとで共沈実験を行った。しかしながら、受容体が共沈することは確認できず、多くは核たんぱく質であった。この理由として、糖鎖を認識するレクチン受容体のリガンドとの結合力の弱さが考えられる。一方で、多くの核たんぱく質が結合したことから、このような細胞内たんぱく質との相互作用が宿主による真菌認識に何らかの影響を与えていることも推測される。 並行して、これまでにA.fumigatusと結合することが示された血清たんぱく質2種について検討を進めた。蛍光ラベルした血清タンパク質で解析を行った結果、いずれもA.fumigatusの分生子、膨化分生子、菌糸においてこの血清タンパク質が結合しうることを確認している。今年度は2種のうち、1種のたんぱく質が著しく生育を促進し、さらに分枝を促進することを突き止めている。今後、本血清タンパク質がA.fumigatusの生育に及ぼす分子メカニズムについて詳細に検討を進める予定である。
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