全ての生物にとってDNA二本鎖切断(DSB)は、生命の維持に関わる重篤なDNA損傷である。その修復機構として、大腸菌ではRecA組換え酵素を介した相同組換え機構(homologous recombination)は存在するが、相同性のない切断部位を直接結合修復する末端修復機構(non-homologous end-joining [NHEJ] system)は存在しないとされている。申請者は、腸管出血性大腸菌(EHEC)のゲノム多様性解析から、O157やO26などの腸管出血性大腸菌に、既知のNHEJ関連遺伝子とは異なる全く新しいNHEJ機構が存在する可能性を見出した。本研究では、腸管出血性大腸菌O157に存在する新規NHEJ関連因子を同定し、その修復機構の全容を明らかにすることを目的とした。IS3ファミリーに属するIS elementがexcisionする際にDSBが形成されると考えられていることから、IS3ファミリーの一つであるIS629のexcision頻度(つまり、DSB修復を起こす頻度)の違いを利用して、高い頻度を示す腸管出血性大腸菌株9株に特異的に存在する遺伝子群(31ORF)を同定した。さらに、これらの31 ORFについて、O157堺株における遺伝子破壊株を作製し、最終的に頻度低下に関わるORFを1個同定してIEE (IS excision enhancer)と名付けた。また、IEEの機能解析から、その反応が挿入配列ISの転移酵素との相互作用により起こることを明らかにした。加えて、このIEEのホモログが、腸管出血性大腸菌だけでなく系統関係を超えた様々な菌種に存在し、遺伝子水平伝播により多種多様な菌種にその分布を拡大したことを明らかにした。
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