研究概要 |
前年度の研究で、劇症型溶連菌感染症臨床分離株において、病原性遺伝子の発現を制御しているcsrS/csrR遺伝子に変異のある株のほかに、rgg遺伝子に変異がある株が存在することが判明した。本年度は、rgg遺伝子の変異が、in vivoで病原性に影響を与えるか調べるため、マウスをもちいた動物実験を行った。まず、劇症型溶連菌感染症臨床分離株(NIH34)、咽頭炎患者分離株(K33)をもとに、劇症型溶連菌感染症臨床分離株にintactのrgg遺伝子を導入した相補株(NIH34rgg+)、咽頭炎患者分離株のrgg遺伝子を破壊した株(K33rgg)を作成した。これらの株についてマウスに対する生存曲線を調べた。その結果、rgg遺伝子に変異のある株(NIH34,K33rgg)は、変異のない株(K33,NIH34rgg+)に比べて致死率が高いことが判明した。また、それぞれの菌を腹腔内に接種し、1日後の腎臓を摘出し、ホルマリン固定後、HE染色により、それぞれの臓器の病理像を観察した結果、rgg遺伝子に変異がある株(NIH34,K33rgg)を接種したマウスで菌の集積がみられ、その周りに細胞の壊死がみられた。それぞれの菌を皮下接種した後、マウスの腫脹の大きさを経時的に測定した結果、rgg遺伝子に変異がある株(NIH34,K33rgg)を接種したマウスのほうが、変異のない株に比べ、腫脹が広がり、病巣が広範囲に広がっていることが判明した。劇症型感染症では、好中球の浸潤がみられないことが臨床的にみられる。そこで、好中球に対する影響を調べた結果、rgg遺伝子の変異株において、好中球の殺傷能の増加がみられた。このことから、rgg遺伝子の変異は、分子疫学的にも、マウスを用いた動物実験においても、劇症型感染症に重要な役割をしていることが示唆された。
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