Mycobacterium avium complex (MAC)は非結核性抗酸菌症の代表的な原因細菌である。MACの血清型は約30種類に及び、さらにそれらの血清型間には病原性の差が認められる。血清型間の生化学的な相違は、菌体表層に存在する糖脂質抗原glycopeptidolipid (GPL)の糖鎖部分に起因していることから、GPLの糖鎖部分がMACの病原性に関与している可能性が指摘されている。しかしながら、その機構については未だ多くが不明である。そこで、本研究では糖鎖の機能を解明することを目的としてその生合成に注目した。約30種類の血清型の中で、4型及び8型血清型株は最も強い病原性を有するグループに属する。昨年度までに8型血清型株のGPL糖鎖生合成を解明した。そこで本年度は、残された4型血清型株に焦点を絞りGPL糖鎖生合成の解析を行った。4型血清型株のゲノム領域から特異性の高い6.8-kbの遺伝子領域をPCR等により増幅・単離した。本領域に含まれる各遺伝子を非病原性抗酸菌M.smegmatis株に導入し、得られたGPL成分のTLC及びGC/MS分析等を行うことにより各遺伝子の機能を解析した。その結果、4型血清型GPLに特異的な糖鎖である4-O-methyl-rhamnoseの形成に関与する2遺伝子、rhamnose転移酵素遺伝子及びrhamnose4-O-メチル化酵素遺伝子を同定した。さらに、rhamnose転移酵素遺伝子は、他の細菌に存在するhemolysin遺伝子と相同性を示したことから、4型血清型株は特異な進化過程を経て4-O-methyl-rhamnoseを含む糖鎖生合成を獲得したことが推測された。これらの知見は4型GPLの糖鎖機能を解析する上で重要であり、今後の機能解析を行う上でも意義があると考えられる。
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