本研究は、インフルエンザウイルスRNA-タンパク質複合体(RNP)と優先的に結合するモノクローナル抗体(mAb61A5)を主要解析ツールとし、感染細胞核内で複製された子孫vRNPの選択的集合と粒子出芽の場である細胞膜への輸送について、分子レベルで解明する事を目的とした。蛍光標識したmAb61A5を、膜透過ペプチド法あるいはリポフェクション法に基づいたタンパク質導入技術により感染細胞へ導入し、共焦点レーザー顕微鏡によるリアルタイム生細胞観察を行った。膜透過ペプチドを用いた手法では凝集抗体による偽シグナルの割合が多く、メーカー推奨の手法のままでは子孫vRNPの動態解析には不適切であることが判明した。一方、リポフェクション法による導入で偽シグナルはほとんど検出されず、感染に依存して細胞質内に粒状のvRNPが観察された。GFP融合α-チューブリンを恒常発現する細胞株を樹立し同様の生細胞観察を行なった結果、細胞質に移行した子孫vRNPは緩急ある速度で時に進行方向を反転させつつ、微小管に沿って移動していることが判明した。子孫vRNP複合体の平均移動速度は1〜2μm/s程度であり瞬間最大速度は5μmls以上に達することから、何らかのモータータンパク質を介して微小管上を輸送されていると考えられる。本研究の成果により、インフルエンザウイルス子孫vRNPの細胞質内輸送を初めて可視化することが可能となり、引き続き関連輸送因子とそのメカニズムを解明することで、新たな抗ウイルス剤作用点の発見が期待できる。
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