ロタウイルス外殻スパイク蛋白質VP4は細胞吸着と侵入で機能するために、ロタウイルス感染性を決定する因子であり、病原性を考える上で重要な分子である。このVP4上には、疎水性領域が存在し、ロタウイルスが細胞侵入する際に働く融合ペプチドである可能性が示唆されている。そこで、私達が世界に先駆けて開発したリバースジェネティクス技術(ヘルパーウイルスを必要とする)を用いて、増殖の良いサルSA11株の疎水性領域を増殖の悪いヒトDS-1株のものと置換した組換えウイルスを作製した。この組換えウイルスの培養細胞における感染性を検討したところ、親株の10分の1程度にまで大きく低下していた。つまり、増殖の悪いDS-1株の疎水性領域への置換は、増殖の良い親株の増殖性を大きく低下させた。実際、SA11株VP4へ導入した5個のアミノ酸変異のうち2個は、中性アミノ酸から親水性アミノ酸への置換であり、結果としてこの領域の疎水性は低下している。今後、範囲を狭めてアミノ酸変異を導入すれば、ロタウイルス増殖過程におけるこの疎水性領域の各アミノ酸の重要性が明らかになるであろう。こうして、ロタウイルスにおいても、これまでできなかった、人工的に変異を加えた生きたウイルスを分子生物学的研究の対象として扱うことが可能になりつつあり、このシステムを使って、ロタウイルスがどうやって増殖して病原性を発現するかの詳細を研究することができると期待される。さらに、この技術を発展させることでロタウイルスの11本で構成される分節ゲノムの全てがcDNA由来となる完全なる人工合成の組換えロタウイルスの作出を目指したい。
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