本年度において、まず始めに樹状細胞による癌細胞の取り込みと抗原蛋白質のクロスプレゼンテーションによる癌抗原特異的キラー(CD8+)T細胞の活性化を明確にできる評価系の開発を試みた。C57BL/6マウス骨髄よりGM-CSFを添加した培地を用いて骨髄由来樹状細胞(BMDC)を誘導した。OVAを発現する癌細胞(EG7)を凍結融解して得たネクローシス細胞をBMDCに添加し貪食させた。これらの貪食能についてCFSEラベルした細胞を用いて共焦点レーザー顕微鏡による観察した結果、実際にBMDCにEG7の取り込みが確認された。またEG7に発現しているOVA抗原蛋白量についてウエスタンブロッティング法により解析した所、BMDCに貪食されたEG7由来のOVA抗原のシグナルが経時的に減少し、その減少の割合はIL-6等のサイトカイン環境下の違いにより変化する事が示唆された。次に、BMDCのクロスプレゼンテーション能を評価する為に、OVAペプチドを特異的に認識するCD8+T細胞(OT-1)を共培養し、OT-1の反応性を解析し、樹状細胞に取り込ませるEG7細胞の最適条件を探索した。 マウスにOVAとBMDCを投与し、生体内におけるクロスプレゼンテーション能についてOVA-テトラマー陽性CD8+T細胞の誘導効率を調べることにより評価した。TLR刺激やサイトカインをマウス生体内に加え、クロスプレゼンテーション能に及ぼす効果について解析した結果、ある種の刺激存在下で癌抗原特異的CD8+T細胞の誘導効率が変化した。今後、TLRあるいはサイトカイン信号伝達経路を遮断する阻害剤あるいは各種ノックアウトマウス等を用いて、クロスプレゼンテーション能が阻害されるかを評価することにより、下流のシグナル分子機序を解明する。最終的にはこれまでに得られた知見を用い、新規癌治療への応用を目指したいと考えている。
|