申請者は細胞内亜鉛濃度変化が抗原刺激依存的に数分の単位で起こる"亜鉛ウエーブ"という現象を見いだした。本研究では引き続き、亜鉛ウエーブを引き起こすより詳細な分子メカニズムの解明を試みた。 申請者は、第一に亜鉛ウエーブの発生に関与している分子の同定を行った。亜鉛の輸送には亜鉛トランスポーターと亜鉛透過性チャネルが関与していることから、まず複数の亜鉛トランスポーターの欠損マウス由来マスト細胞で亜鉛ウエーブを検討したが、関与は認められなかった。しかしながら、亜鉛透過性チャネル阻害剤を用いた結果、亜鉛ウエーブが抑制抑制され、このことはshRNAによるタンパク質発現低下で亜鉛ウエーブが抑制されることから、亜鉛透過型チャネルが亜鉛ウエーブの発生に関わっていることを明らかにした。次にこのチャネルの局在を共焦点レーザー顕微鏡、FACS、スクロース密度勾配分画を用いて検討した結果、細胞膜よりも細胞内で優位に発現していることが示され、亜鉛ウエーブが細胞内から発生することと一致することを確かめた。さらに亜鉛ウエーブの生理的意義を検討するため、亜鉛ウエーブとマスト細胞の活性化を検討した。その結果、マスト細胞の脱顆粒反応ではなく、サイトカイン制御に関与していることが、培養マスト細胞およびマウスの接触性過敏症の実験より明らかになった。サイトカイン産生抑制の分子機構を検討した結果、転写の鍵となるNF-kBの核移行を抑制していることが明らかになった。 これらの結果から、本研究では、亜鉛ウエーブが亜鉛透過性チャネルを介して発生して、サイトカイン産生のシグナル伝達を正に制御していることを明らかにした。本研究で得られた知見は、マスト細胞のサイトカイン産生について亜鉛シグナルの視点で解析する点で有意義な結果であると思われる。
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