我々は、効果的に宿主の免疫応答を惹起する目的で、哺乳動物細胞において複製可能な弱毒ワクチニアウイルス「LC16m8株」を母体としたHCV遺伝子組換えワクチニアウイルス(rVV-N25)株を作製し、等研究室で樹立したHCV病態モデルマウスを用いて治療ワクチンとしての評価を検討した。接種後1週目ではHCV蛋白発現量に変化はみられなかったものの、rVV-N25群の肝臓において壊死性細胞浸潤、肝細胞索の乱れ、肝細胞の膨化、グリコーゲン変性および脂肪変性といった慢性肝炎の病態の正常化が認められた。血清中の炎症性サイトカインの変化を経時的にみると、接種後6~7日目で上昇していた炎症性サイトカインレベルがrVV-N25群では正常マウスレベルにまで漢っていたことがわかった。さらに、4週目のrVV-N25接種群では形態異常の正常化に加え、肝臓内のHCV蛋白の減少がみられた。そこで抗CD8抗体および抗CD4抗体を予め投与した状態のマウスにrVV-N25を接種すると、どちらもHCV蛋白の減少はみられなかった。このことから、rVV-N25のHCV蛋白の制御にはCD4およびCD8+T細胞が重要であることが示唆された。しかし、肝臓の形態異常は抗CD8抗体および抗CD4抗体を投与したにも関わらず正常化していたことから、病態形成とHCV蛋白排除は別のメカニズムであることが考えられた。また肝臓内HCV蛋白の制御に関して、CTLなどによるHCV発現細胞の排除を検討するために、肝臓のHCV遺伝子のスイッチング効率およびHCVのmRNA量をTaqMan法により検索した。その結果、DNAレベルおよびRNAレベルともにコントロールと差がなかった。このことから、rVV-N25接種によるHCV蛋白の制御には細胞死を伴わない何らかの蛋白排除機構が働いていることが示唆された。
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