本研究では、複合的にメディエーターを阻害することによる新たな敗血症性ショック治療戦略の構築を目指して、本疾患時に過剰産生される一酸化窒素(NO)と活性酸素種を同時に効率よく消去するハイブリッド型治療薬の創製を試みている。すなわち、生体内に存在するタンパク質のSH基はNOと反応し、S-nitrosothiolを生成することで、NOのリザーバーとして機能している報告があることから、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)やカタラーゼなどの活性酸素消去酵素にSH基を化学的に多数導入することによるNO消去機能を賦与した活性酸素消去酵素の作成を試みている。 平成20年度では、まず、NOを効率よく消去することによる敗血症性ショック治療を目指して、モデルタンパク質として、牛血清アルブミン(BSA)を選択し、多数のSH基と体内動態制御を目的とした機能性分子を導入したSH基結合体の作成を試みた。BSAに多数のSH基を導入する際、予めBSAにpolyethyleneglycol(PEG)を導入することで、SH基導入時の凝集を防止するとともに、血中滞留性の向上を計画した。PEG-BSAにN-succinimidyl S-acetylthioacetate(SATA)を結合させることで遊離SH基を導入したPEG-BSA-SHを合成した。SH基の導入数はBSA 1分子あたり約10個であり、多数のSH基導入に成功した。PEG-BSA-SHのNO消去能を評価することを目的として、緩衝液中で、NO供与体であるNOC7から放出されるNOとの反応性について評価したところ、PEG-BSA-SHは、低分子SHであるグルタチオンと比較して、高い反応性を示した。さらに、マウス静脈内投与後のPEG-BSA-SATAは、計画通り高い血中滞留性を示し、循環血中のNO消去に有利な体内動態特性を示すことが明らかとなった。
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