本研究では、複合的にメディエーターを阻害することによる新たな敗血症性ショック治療戦略の構築を目指して、本疾患時に過剰産生される一酸化窒素(NO)と活性酸素種を同時に効率よく消去するハイブリッド型治療薬の創製を試みている。 平成20年度では、まず、NOを効率よく消去することによる敗血症性ショック治療を目指して、NO消去能と血中滞留性に優れたチオール修飾PEG化アルブミン、PEG-BSA-SHの創製に成功した。そこで平成21年度では、敗血症による臓器不全モデルにおけるPEG-BSA-SHの有効性を評価した。敗血症による臓器不全モデルは、敗血症様の症状を引き起こすリポポリサッカライド(LPS)をマウスに腹腔内投与することにより作製した。LPSを腹腔内投与したマウスにPEG-BSA-SHを静脈内投与したところ、肝臓障害の指標である血漿中AST・ALT活性の上昇が顕著に抑制された。また、レーザードップラー法を用いた評価により、LPS腹腔内投与による肝臓血流量の低下が顕著に抑制されることが明らかとなった。さらに、LPSによる血漿中NO酸化物濃度の上昇がPEG-BSA-SH投与により抑制されたことから、PEG-BSA-SHは生体内のNOレベルを制御することにより肝臓障害を抑制していることが明らかとなった。以上のことから、敗血症による臓器不全におけるPEG-BSA-SHの有効性が示された。今後、NO消去能を有するチオールのキャリアとして用いているアルブミンをスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)やカタラーゼなどの活性酸素消去酵素と置き換えることで、活性酸素消去酵素とNO消去能の相乗効果が期待できるハイブリッド型治療薬の作製が可能になるものと考えられる。
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