近年、アルギニンやリジンなどの塩基性アミノ酸に富んだペプチドをベクターとして、細胞内にタンパク質など高分子を導入する手法が注目されている。これらの塩基性ペプチドにより導入された分子は、主に通常の物質取り込み経路であるエンドサイトーシスによって細胞内へ移行する。しかし、それらの分子の細胞質内拡散に関する知見はほとんど存在しない。そこで、これまで未解明であった「細胞質内への移行メカニズム」を明らかにすることを目的とした。 細胞質内への導入分子の移行を検出する方法として、GFP蛍光タンパク質の再構成法を利用した。まず、NZ-NGFPを細胞内で発現させる。次に、塩基性ペプチドを付加したCZ-CGFPを調製して細胞培養液に添加する。この断片がエンドサイトーシス等により細胞内に取り込まれ、その後ごく微量に細胞質内に放出される。このとき既に細胞内で発現していたNZ-NGFPと出会えば、GFPを再構成して蛍光が観察されるはずである。実際に、大腸菌でCZ-GFPを発現させて、不溶性画分から変性剤を用いて可溶化し、精製後にリフォールディングさせる方法や、界面活性剤を共存させて導入させる方法等を試してみた。しかし、細胞外の培地に添加した時点で再不溶化し、細胞内に導入させることは困難であることが分かった。そこで、GFPの代りにクサビラグリーン蛍光タンパク質(mKG)を用いることにした。mKGを二つに分断し、そのC末領域(mKG_C)に塩基性ペプチドを付加して細胞内でmKG_Nと共発現させたところ、共焦点顕微鏡観察により再構成が確認された。また、mKG_Cを大腸菌で発現させて精製を試みたが、CZ-CGFPに比べて可溶化される割合が格段に高いことが分かった。今後、この検出系を確立し、細胞質内に放出された導入分子を可視化する。これによって、「細胞質内への移行メカニズム」が明らかとなり、より効率的な細胞質内への薬物送達が期待できる。
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