近年、アルギニンやリジンなどの塩基性アミノ酸に富んだPTD(Protein Transduction Domain)によって、細胞内にタンパク質などの高分子を導入する手法が注目されている。PTDにより導入された分子は、主に通常の物質取り込み経路であるエンドサイトーシスによって細胞内へ移行する。しかし、それら導入分子の細胞質内拡散に関する知見はほとんど存在しない。そこで、本課題では細胞質内へ移行した導入分子の検出方法を確立し、より効果的な薬物送達法の構築を目指した。ヒラタクサビライシ由来の緑色蛍光タンパク質であるクサビラグリーンは、細胞内でN末側とC末側の断片を別々に発現させた場合でも、結合ドメインなどの相互作用によって双方を近づけると会合して緑色蛍光を発する。そこで、このタンパク質の再構成を利用して細胞質内へ移行した導入分子の検出を試みた。まずN末断片を細胞内で予め発現させておき、PTDを付加したC末断片を細胞外の培養液に添加する。もし、このC末断片が細胞質内に移行してN末断片と出会うことができれば、細胞内でクサビラグリーンを再構成し蛍光を発するはずである。実際にN末側の断片を恒常的に発現する細胞(HEK293T細胞由来)を作製し、この発現細胞の培養液に、PTDを付加させたC末側の断片を加えた。経時的に共焦点顕微鏡による観察を行ったところ、導入から約8時間後に再構成が確認された。また、この再構成はHEK293T細胞だけではなく神経幹細胞(マウス胎児由来)においても、確認することができた。以上の結果から、クサビラグリーンの再構成法を用いて、本課題の目的である細胞質内へ移行した導入分子を検出する方法を確立することができたと言える。
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