選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、うつ病性障害のみならず不安障害にも有効性を示す優れた抗うつ薬であり、副作用が少なく安全性の高い薬物として本邦でも第一選択薬となりつつあるが、急激な服用中断や用量の減量によって発現する離脱症状が臨床上問題となっている。しかしその発現機序は解明されておらず、また発現の個人差について遺伝的素因との関連を検討した研究は行われていないのが現状である。本研究の目的は、SSRIのパロキセチン(PAX)による離脱症状の発現を、薬理遺伝学の観点から明らかにすることである。 九州大学病院倫理委員会の承認後、九州大学病院心療内科外来において、同一治療者からPAXによる治療を受けた連続した111症例のうち、治療期間中にPAXの服用中断または用量の漸減が行われ、かつ自由意志に基づき文書による同意を得た連続した56例を対象とした。パロキセチンの主代謝酵素であるCYP2D6、作用部位である5-HTトランスポーター(5-HTT)、5-HT受容体(HTR1A、HTR2A、HTR2C、HTR3A、HTR3B)の遺伝子多型解析結果と、離脱症状発現の関連について検討した。その結果、離脱症状発現と各種遺伝子多型との間に有意な相関は認められなかつたものの、HTR1A遺伝子のC(-1019)G多型に関して、G/G変異型アレルをホモで有する群において、離脱症状の発現が減少する傾向にあることが示唆された。また年齢や性別といった症例プロファイルを含めた多重ロジスティック解析では、「服薬の急激な中断」が「漸減・減量」に比べて、離脱症状発現のリスクを78.7倍に上昇させる可能性が示唆された。今回の結果から、「服薬の急激な中断」が離脱症状発現に関与する重要な因子であること、またHTR1A遺伝子のC(-1019)G多型が離脱症状発現に関与する可能性が示された。なお、これらの結果については、学会報告1件を行っている。
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